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「花湖さんの打出のコヅチ」特別講座開催しました

 智証大師円珍関係文書が、ユネスコの「世界の記憶」に登録決定されたことを受けて、特別講座「智証大師円珍関係文書の世界」を7月27日(木)に開催しました。 連日の酷暑にもかかわらず、多くの方が聴講に来られました。

 今回の講師は、智証大師円珍の関係文書を歴代伝えて来た 三井寺の長吏・福家俊彦氏です。円珍の人となりや伝世されて来た関係文書のことを熱く語ってくださいました。

 智証大師円珍は814年に生まれ、その14年後に比叡山にあがり出家。その後、有徳の師に師事したり大峰山や葛城山で修行を積むなどしてめきめき頭角を現し、ついには延暦寺の座主、三井寺の初代長吏ともなった傑僧です。そのような円珍が天台教学と密教の神髄を求めて唐(当時の中国王朝)に旅立ったのが853年。その往路をみると、大宰府から出発して福州~杭州~蘇州~揚州~洛陽~長安となっています。現在とは異なり交通事情や治安が各段に悪い中よくこれほどの距離を踏破したものと思います。講師が言われるように、円珍は「感応力」「先見の明」「峻厳な学究」「聖俗との交り」を兼ね備えていたとのことですが、そのような自由闊達な精神の在り方が唐の国への大旅行を可能にし、多くの仏典をはじめ先進的な文物の招来を可能にしたようです。

 それでは、今回、ユネスコの「世界の記憶」に登録された智証大師円珍に関わりのある文書群とはとのようなものなのでしょうか。それらは、智証大師関係文書典籍46件・五部心観(曼荼羅絵)1件・円珍関係文書8件・円珍贈法印大和尚位並智証大師諡号勅書1件など56件で構成され、いずれも国宝に指定されています。

 中でも、中国国内(福州・温州)を通過するときに、使われた「通行手形」というべき「過所(かしょ)」が当時のまま残されていることが注目されます。幾多の王朝が興亡を繰り返した中国では、当時を知る一次資料がほとんどが失われていますが、円珍が持ち帰った 過所は唐の交通政策や社会状況を知ることができる貴重なものとなっています。

 講演の最後に、講師は一人の僧に関係する一連の文書が千年以上の時を超えて保存・伝えられて来たことは極めて稀で、偉大な師に関係する文書を残そうとする先人たちの 使命感やたゆまぬ努力にはただただ頭がさがると言われていました。さらに、現在のデジタル時代にあっては、記録や文書を保存・伝えていく過程には人が介在しないことが多く、将来の課題となることを指摘されたことが心に残りました。

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