日別アーカイブ: 2019年5月13日

「花湖さんの打出のコヅチ」第1回 開催しました

琴・琵琶・三味線など、日本にはたくさんの伝統的な弦楽器があります。みなさんはこの弦楽器の弦が何でできているかご存知ですか?
植物の繊維?クジラの髭?残念!実は蚕(かいこ)が吐く糸、つまり絹でできています。現代ではナイロンなど化学繊維のものが普及しているようですが、本来の和楽器はあの繊細で美しい絹から作られた弦で音色を奏でています。

5月9日に開催された今年度第1回目の滋賀の文化財講座「花湖さんの打出のコヅチ」では、「伝統音楽を守る~邦楽器の糸製作」という演題で、琵琶湖文化館にも勤務されている滋賀県教育委員会文化財保護課の矢田直樹主査と、スペシャルゲストとして、この絹弦を明治以来作り続けておられる長浜市木之本町の丸三ハシモト株式会社の橋本英宗氏にご登壇いただき、絹弦制作の実情や、絹弦を世界に発信していくチャレンジについてお話しいただきました。講座に参加された100名の受講生のみなさんは、終始和やかな雰囲気で、講師のお話に耳を傾けていらっしゃいました。

先ずは、文化財の保存技術についてのお話です。国は、文化財を修理する技術や、文化財に用いられている材料等を作る技術を選定保存技術として選定し、その技術を保持する団体や人を認定しています。滋賀では平成3年に『邦楽器原糸製造』(繭から糸を作る技術)として、木之本町邦楽器原子製造保存会が認定され、平成30年に『邦楽器糸製作』(生糸から弦を作る技術)として、木之本町の橋本圭祐氏(英宗氏のお父様)が、選定保存技術保持者として認定されています。
講演では、独楽のような道具で糸を撚る「独楽撚り」の動画などを交えて、絹弦制作の工程をわかりやすく解説していただきました。この機械化の時代、糸の撚りや糊付けなど、ほとんどの工程を手作業で行っている実態にビックリ。生産量の少ない弦は逆に手作業の方が小回りが利いて良いのだとか。それと、手作業でなければ演奏者一人一人の好みに合わせた弦は作れないそうです。伝統産業は、効率化だけがすべてではないのですね。しみじみ。
また、自然の産物である絹糸は太い細いがあり、太さが均一ではありません。ですが、この不揃いな糸こそが適度な乱れを生み、音に深みを与えるそうです。太さが均一な化学繊維の糸には真似できない音だとか・・・なんとも奥深い!!
近年では、和楽器だけでなくアジアの弦楽器の絹弦の開発にも乗り出し、中国古来の楽器古琴の弦の生産に成功したとのこと。中国でも絹弦の伝統はほとんど残っておらず、日本での復活が大きな話題になったそうです。昨年は滋賀県と中国湖南省の友好提携35周年の式典が行われましたが、この時に湖南省に送られたプレゼントは何とこの絹弦でした。まさにシルクロードをさかのぼった絹の弦が、国際交流の懸け橋となりました。細い細い糸がワールドワイドな交流を生み出せたのも、伝統の継承とその先の革新の努力のたまものなのですね。

全国でも和楽器に用いる絹弦を作っている業者は、もう7軒しか残っていないそうです。そして、なんとそのうちの4軒が我らが滋賀県にあるということは、聞いている私たちにも驚きで、とても誇らしい思いでした。世界に響け!滋賀の音!!

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