月別アーカイブ: 10月 2018

安定した収蔵環境の維持(施設燻蒸編)

琵琶湖文化館では多数の指定文化財を含む約9,000点の作品を収蔵しています。博物館の仕事のなかで基本的かつ最も重要な仕事は、これら”作品の保管 ”とも言えます。作品の展示公開や調査研究といった活用も、適切な保管の上に成り立っているのです。
博物館では専門の職員による日常的な作品管理だけでなく、収蔵環境の把握と対策、具体的には定期的なモニタリング、それによって得られた環境情報に基づく清掃や調湿等を行います。そして、さらに安定した収蔵環境を維持するために行うのが、虫やカビなどから文化財を守る「燻蒸(くんじょう)」という作業です。
燻蒸には、大きく分けて二つのタイプがあり、作品そのものに対して行う方法と、作品を保管する施設全域に対して行う方法とがあります。前者は一般的に収蔵庫に作品を搬入する前に行うもので、後者は安定した収蔵・展示環境を維持するため、収蔵庫や展示室といった施設全域に対して行います(写真は、空間全域に薬剤を充満させる際に行う目張り作業の様子です)。
文化館では、この施設燻蒸を年に数回、計画的に実施しており、先週も収蔵庫の燻蒸作業を実施しました。展覧会などに比べると地味で地道な作業ですが、「近江の至宝」を守る当館としては最も重要な任務の一つといえます。

学芸員W
 

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揉み紙のご縁

「揉み紙をしておられた松田喜代次さんの作品を見せていただくことは出来ますか?」
先日、このような問い合わせのお電話をいただきました。当館は現在休館中であり、残念ながらこちらで見ていただくことは出来ないことをお伝えしましたが、なんだかこのまま電話を切ってしまうのが少し名残惜しく、「何故、作品を見たいと思ったのか」詳しくお伺いしてみることにしました。
すると、「自分は奈良で揉み紙のワークショップをしているが、色々と『揉み紙』のことを調べていると、どうしても松田喜代次さんに突き当たる。そこで松田さんが作られた作品を、実際に是非見てみたいと思った」とのこと。当館のウェブサイト収蔵品紹介に掲載している松田氏の作品を見て、お電話を下さったようなのです。

当館では、平成8年に特別陳列「滋賀県無形文化財 松田喜代次遺作展(松田喜代次の技-もみ紙の世界から-)」展を、平成18年に小企画展示「揉み紙と現代茶陶」展を開催。また、休館となってからは、平成26年に安土城考古博物館において「琵琶湖文化館秘蔵品で味わう 茶を魅る」展において、松田氏の作品を展示公開しました。
揉み紙は、金箔押し・型押し・型紙押し・砂子振り・泥引き・雲母引き・切箔押しなどの唐紙(からかみ)の技法の1つです。和紙に具を塗布して手で揉んで、紙の表面に揉み皺を付けます。唐紙の中でも顔料を引いた素朴な趣の揉み紙は茶人達に愛好され、茶席では掛物や風炉先屏風などに用いられました。松田氏は、昭和39年(1964)に滋賀県無形文化財「揉み紙」の技術保持者として認定された方で、伝統的な揉み紙の技法を受け継いだ最後の技術者とも言われています。

・・・そうなんです!松田氏の作品は本当に素晴らしいのです!既に紹介している『揉唐紙風炉先「渋水郷」』も、それはもう人間技とは思えないほど緻密に計算し尽くされたアートなんです!いえ、人の手だからこそ生み出された逸品!なのです。電話をいただいた方も、「魂が揺さぶられるほどに素敵!」と言っておられました(!!)。わかっていただけて、とても嬉しいです(!笑!)。
というわけで、せめて雰囲気だけでも・・・!と特別にご用意致しました。「渋水郷」と明治30年頃に滋賀県野洲の窯で焼かれた「小富士焼」の煎茶道具です。実物の素晴らしさをイメージしていただけると幸いです。

お電話の女性は、10月最初の日曜日に奈良でワークショップイベントを行うと言っておられました。皆さん楽しまれましたか?遠くても近くても、当館の作品を通じて、このようなご縁をいただいたことに感謝いたします。そうです!揉み紙の素晴らしさを多くの方に知っていただきましょう!当館も頑張ってまいりまーす!

筆:あきつ

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古文書を読めない人も

(タイトルから続きで)大丈夫!古文書(こもんじょ)を楽しめます!!
例えば、展覧会などで戦国武将の書状が展示してあっても「何をかいてあるのか分からないから」と、スルーをしてしまうアナタ!もったいないですよ!!突然ですが、古文書を読めなくても楽しめる「古文書の見方」をちょこっとお勉強したので、皆さんにも伝授させていただきましょう~!ポイントは「読み方」ではなく「見方」なんですが・・・ね!

『古文書』と聞いて苦手意識があるヒトは?(ハイッ!)ですよね~難しいですよね~読める気がしないですよね~。たった数百年前の字なのに何故?!とは思いますが、きっと戦国時代の人たちも、現在のスマホの絵文字は理解不能だと思います!(^^)!。それはさておき、、、古文書を勉強されている方は、字を読んで書かれている内容を解読して「なるほど面白い」となるのでしょうが、では読めないヒトはどうしましょう。。。そこを「見る」ことで楽しめたりするのですよ!

『古文書』とは、○○さんから●●さん宛てのお手紙です。皆さんもちょっと改まった縦書きのお手紙を書いたことがありませんか?なんとな~くルールのようなものがありましたよね?相手に失礼のないように色々と・・・うぅっ、就職活動の時に履歴書と一緒にご挨拶の一筆を送るのにとても気を使った思い出が。。。同じように、昔のお手紙(古文書)にもいろんな決まり事があり、それに則った書き方をしている(丁寧) か、外れた書き方をしている(手抜き?)かで、差出人の立ち位置(位や立場、上下関係)・思惑が分かるというのです。

例えば「花押(かおう)」の位置。花押は署名の代わりに書いた手書きサインのようなもので、殊に織田信長の花押:麒麟(きりん)の「麟」の字をかたどったデザインは有名です。花押を見れば「誰から」の手紙か一目でわかります。これが文章の最初にバーンと書かれていると「ワシじゃ、よう読めよ」と少し上から目線となり(?)、差出年月日の下に官職と花押が書かれていれば、丁寧に礼が尽くされたお手紙となります。
他にも、充所(あてどころ:宛先)は文章の一番最後に書きますが、年月日より下であれば薄礼、上に書かれていれば厚礼、中には充所すら書かれていない(意図して書いていない!)場合もあるようです。・・・コレって少し書く位置をズラすだけで、恐ろしく高圧的で失礼極まりない手紙が出来上がってしまうのでは?!・・・そこには身分や格の違い、上下関係を明確に伝える意図があったようです。恐るべし心理戦。。。
反対に、上位の人から作法に則った美しく丁寧な文書が下されれば、受け手側は「私たちのことを大事に考えて下さっている。おそれ多いことで、ははぁーっ(平伏)」となりますよね。文章を読まずとも、その体裁をみるだけで、大体のニュアンスというか、その文書の雰囲気が読めるのだそうです。こんな見方があったのか!!
是非一度お試し下さい。

誰から誰へ、書かれている内容と、体裁とのギャップを読み解くことができれば、もっとリアルな人間模様が楽しめそうです。その域に達するには・・・もう少しお勉強!

筆:あきつ

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「花湖さんの打出のコヅチ」第5回 開催しました

昨日11日(木)は、「滋賀の文化財講座 花湖さんの打出のコヅチ」第5回を開催いたしました。今年度の講座は全6回ですが、打出浜(コラボしが21)での講座は今回で終了。座学の最終回ということもあってか、189名という多数の方にご参加いただくことができました。
この文化財講座も「打出のコヅチ」となって今年で11年目。開催当初からずっとご参加くださっているという“ツワモノ”のリピーターさんもいらっしゃいます。また、今年度6月から始まった講座に全回出席(皆勤賞)という方も、なんと46名いらっしゃいました。ご参加いただいた皆さま、どうも有り難うございました!

講座では、このところ司会進行に徹していらっしゃった松下浩氏(県教委文化財保護課)が、いよいよ第5回の講師としてご登壇。「天下布武の城 安土城」というテーマで、あの独特の松下武士、もとい、松下節をお聞かせ下さいました。
安土城や織田信長に関してのこれまでの研究は膨大にありますが、その中でも今回は、安土城跡の調査整備に長年携わってこられた松下氏ならではの視点から、平成の発掘調査の成果についてどう理解するかをめぐっての、最新の研究動向に焦点を絞って解説いただきました。城郭としては異例の直線にのびる大手道の意味、大手口にある複数の虎口の性格など、各ポイントについて、今なお激しく交わされている論争も、詰まる所は信長の意図がどこにあったのか、なぜ信長はそのような野望を持つに至ったのかの理解につながることがよくわかりましたね。
お話にもあったように、今はどうやら城郭研究界のインフルエンサー(影響力者)とも言える、とある大学の先生のご説が、世に広く知られているということです。しかし、その先生のご著書の中で、なんと「”松下説は間違っている”とまで言われた」と口惜し気に嘆いておられた講師先生(!!)。その後の発掘調査や信長研究の成果を論戦のための鎧兜として纏っての今回の反撃は、これからの季節、インフルエンザのように世に広がっていくのでしょうか(笑)?城郭研究の世界はまだまだ戦国時代の様相を呈しているようです。この先、誰が「天下人」となり、「天下静謐(せいひつ)」がどのようにして得られるのか、皆で注目してきたいですね。

さて、このような安土城をめぐって繰り広げられる現代の攻防戦。聞いているだけでもとても面白いのですが、講座に参加された皆さまには、詳しい地図・図版のいっぱい詰まった今回の資料を手に、ぜひ一度現地に立ってみることをおススメしたいと思います。山麓からまっすぐに伸びる大手道を自分の足で登りながら、信長、将軍あるいは天皇の気持ちなども想像してみると、また別の新説が生まれてくるかも知れませんからね。

SNSなどの急速な広まりの中、情報リテラシー(活用能力)が問われる現代です。歴史や文化財についても、情報に流されるのではなく、自分で足を運び、その目で確かめてみる。そして、ある時すべてが腑に落ちる。それこそが歴史を学ぶ醍醐味でもあります。この講座が、皆さまにそういった体験をしていただけるきっかけとなるなら、とても嬉しいです!

という訳で!次回第6回(11/8)は、同じく松下氏による昨年度の講座で学んだ「彦根城」について、実際に現地を訪れて外堀の跡を辿り、皆で城へと攻め入る準備(?)をしたいと思います(笑)。第6回の講座は、本日より参加受付開始です。皆さま奮ってご参加下さい!

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県博協シンポジウム in 草津宿本陣

琵琶湖文化館も加盟している”県博協”こと滋賀県博物館協議会。この協議会には、県内の博物館・美術館など70館が加盟しており、連携して定期的に博物館活動に関する研修会や各種の活性化事業を実施しています。そんな活動の一環として、毎年広く一般に向けたイベントも行っています。
今年の10月28日には「道の国・近江」をテーマに、県内の街道沿いに所在する博物館施設等の専門家たちが一堂に集い、『道の国・近江の魅力発信!!~街道文化を今に伝える博物館~』と題し、近江の街道の歴史と魅力、さらに担当職員ならではの街道を活かした”地域づくり””まちづくり”について熱い議論が交わされます。

なおシンポジウム終了後は、会場である草津宿本陣の見学会も行われますので、あわせて街道文化の魅力をご堪能ください。参加は事前申込み制です。募集人数が限られていますので、お申込みはお早めに!

 【タイトル】 道の国・近江の魅力発信!!
        ~街道文化を今に伝える博物館~
 【会  場】 史跡草津宿本陣 西広間
        (草津市草津1丁目2-8)
 【日  時】 10月28日(日)
        14:00~15:30(13:30受付開始)
 【募集人数】 50名(要申込み 先着順)
 【申込み先】 史跡草津宿本陣
        TEL・FAX/077-561-6636
        メール/honjin@city.kusatsu.lg.jp
 【申込期間】 9月21日(金)~ 10月21日(日)

 ※参加には、史跡草津宿本陣入館料が必要となります。

お申込み・お問い合わせは史跡草津宿本陣となりますので、皆さま奮ってご参加ください。

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「花湖さんの打出のコヅチ」第5回のご案内

今年度の滋賀の文化財講座「花湖さんの打出のコヅチ」も残すところあと2回。打出浜(コラボしが21)での座学は、10月11日(木)の第5回で最終となります。第5回の講座は、滋賀県教育委員会文化財保護課の松下浩氏を講師にお迎えして「天下布武の城 安土城」というテーマでお話しいただきます。

あの織田信長が築城した安土城。明智光秀の企てた本能寺の変ののち、天守や本丸は焼失、その後廃城となり。。。時の経過の中で、深い森の中に残る石垣も苔むし崩れかかっていたのですが。。。平成の時代に入って滋賀県教育委員会による調査整備事業が進められ、次々と発見された新たな事実をもとに、大手道や石垣など城の基盤となる部分が美しく蘇ったのは、皆さんご存知ですよね?この調査整備事業に長く携わり、信長や安土城についての研究にずっと取り組んで来られたのが、今回ご登場いただく松下氏です。

松下氏には、一昨年度の講座でも「信長文書の世界」というテーマでお話しして頂いておりますが、その時にご参加された方、覚えていらっしゃいますか?信長の書状を細かく見ていくと、革命児と言われた信長の、意外な側面が見えてきたのでしたね。このように最近の研究では、信長の人物像にも変化が見られてきたところ。そして、この新しい信長像を踏まえて見えてくる「安土城」の新たな姿とは、さていかなるものか?

「まだ申し込んでいなかったわ!」という方、こちらに専用フォームもご用意しておりますので、どうぞご利用下さいませ(電話・FAXでも受け付けております)。

最後にちょこっと、今年度最終回となる第6回講座の予告です。11月8日(木)開催の第6回講座は、現地探訪「彦根城外堀の痕跡をめぐる」となっておりますが、詳細は10月11日(木)以降、文化館ホームページにも掲載いたしますのでご覧ください。参加申込は、10月12日(金)午前9:00から、電話での受付のみとなります(第6回については、メール・FAXの受付は有りませんのでご注意下さい)。

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ホームページ9月のアクセス数

いよいよ今日から10月です。今年度も半年が過ぎ、折り返しの地点に来ましたよ。今日はまず、先月9月のホームページアクセス数のご報告です。こちらは、1,593件と、また多くの方にご訪問いただくことができました。ちなみに、今年の上半期の累積アクセス数は、10,768件にもなりました!ご訪問いただいた皆さま、どうもありがとうございました。
今回、上半期にどのページがよく見られているかを調べてみたのですが、やはり一番は「文化財講座花湖さんの打出のコヅチ」のページでした。皆さん楽しみにしていただいているのですね~。『別途募集』となっていた11月8日実施予定の現地探訪については、間もなく詳細をご案内できるかと思いますので、そちらもお楽しみに!その他には「収蔵品紹介」や「浮城モノ語り」が人気のページとなっています。新しい記事がどんどん加わっていくコーナーに、皆さま常々注目して頂いているということでしょうか?これからもまた、引き続きお楽しみいただけるように、工夫をこらしたページ作りを行っていきたく思っております。皆さま、どうぞご期待下さい!

さて、10月ともなると昼間でも少しひんやりとして上着が必要な季節・・・皆さま、食欲の方、アップしてきませんか?体重の方も気になりますが。。。美味しいものをその旬の時期に味わう口福はしっかりと噛みしめておきたいものです!秋に美味しいものは、世の中に食べきれないほどありますが、特に滋賀ならではのものとして、今日は「アメノイオご飯」をご紹介いたしましょう!

「アメノイオ(ウオ)」とは、サケ目サケ科に属する淡水魚で琵琶湖にのみ生息する固有種・ビワマスのことで。。。などと言葉で説明するより、こちら7月25日のブログでご紹介した「湖魚図」を(是非拡大して)ご覧ください。産卵期、大雨になると大群をなして川を遡上することから、「アメノイオ(雨の魚)」と呼ばれています。
この魚、夏に琵琶湖の深い所にいる時のものもトロ~リ脂がのっていて、お刺身でおいしくいただけます。しか~しちょうどこれから秋の産卵期!子孫繁栄のために、全力を振り絞って川を遡ってくるため、脂ののりは少し落ちますが、丸ごとお米の上に載せてお醤油だけで炊いた炊き込みご飯が、これまた絶品なんです!この「アメノイオご飯」(レシピはこちら)は、平成10年に滋賀県の無形民俗文化財にも選定されているんですよ。文化の秋です。食事もまた文化の大事な要素。そして、食文化は食べる人がいて初めて、周りに広まり伝わっていきます。この季節にしか味わえない滋賀の食事文化を、皆さまもぜひお腹いっぱいに味わってみて下さい!

ちなみに、アメノイオに関してもう一つ。滋賀県高島市安曇川は、かつて御厨(みくりや:神社の供物を調達するための領地)のあった土地ですが、ここの若宮神社では、毎年10月1日に安曇川献進祭として、京都・上賀茂神社にアメノイオを奉納しています。今年は台風の影響が心配されるところですが、古くからの琵琶湖と京の都(みやこ)との結びつきを示すこのお祭りが、今年も無事に行われることを琵琶湖の畔から祈りながら。。。
では、10月も”あきつブログ”をどうぞよろしく!

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