日別アーカイブ: 2023年12月14日

いまさら、家康 ?!

 N〇K大河ドラマ「どうする家康」も最終盤に差し掛かり、クライマックスの大坂冬の陣が描かれました。俳優・北川景子さんの演じる「ラスボス」茶々が率いて士気あがる豊臣軍に対して、大坂城へ大筒で直接攻撃を加え一気に戦局を打開しようと図る徳川家康(演:松本潤さん)。

 自らのかわいい孫である千姫も籠城している本丸への砲撃に先立ち、家康が本陣の床几に坐ってひたすら書き続けていたのが「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏……」の文字。阿弥陀如来におすがりする、という気持ちをこめた「名号」でした。

 徳川家康が熱心な浄土宗の信徒で、阿弥陀如来への信仰を抱いていたことは有名です。ドラマの序盤から家康の軍旗に書かれた「厭離穢土欣求浄土」の文字も、汚れたこの世をきらい清らかな阿弥陀仏の国土を願い求める彼の思想を明らかにしたものです。

 徳川家康が書いたとされる「日課念仏」の実物は今も各所に伝えられ、何を隠そう、琵琶湖文化館にも収蔵されています。縦26センチほどのやや小さめの和紙に、小さな文字で「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏……」と一行6段、それを延々70行に亘って書き連ねたものです。ただし、 数か所に「南無阿弥家康」「南無阿弥陀家」という誤字(?)も含まれています。 前後の切れた断簡(だんかん)なので、もとはまだまだたくさんの「名号」が書かれていたはずです。実に圧巻です。

徳川家康日課念仏 (部分) 琵琶湖文化館蔵

 ところが、実は!この「徳川家康日課念仏」、贋作説があるのです。そのことは徳川義宣氏が昭和55年(1980年)・56年に論文「一連の徳川家康の偽筆と日課念仏」(徳川黎明会『金鯱叢書』第8・9輯)で論じられました。そもそも日課念仏は旧幕臣の池田松之助が明治時代に書いた偽筆であるが勝海舟らの添え書きを付けて収集家に斡旋したため、広く世に流布したというのです。徳川義宣氏は論文の中で、家康の名言として知られる「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」についても、池田松之助が徳川光圀の遺訓をもとに偽作したものだと指摘しています。

 伝・徳川家康自筆の日課念仏は各地で大切にされ、一部は文化財としての認定を受けている場合もあります。琵琶湖文化館に所蔵する本品についても贋作であるとすれば残念ではありますが、真実は明らかにしていかねばなりません。当館としても努力はしているのですが現在のところ決定的な知見が得られず、結論が出せていません。大河ドラマは間もなく最終回を迎えますが、作品の研究は続けます。

  最後の最後に大きな課題を投げかけてくれた大河ドラマ「どうする家康」のワンシーンに感謝しつつ、新しい年にはさらなる研鑽を誓いたいと思います。

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