高島市大清寺に伝来する、千手観音とその眷属である二十八部衆を描いた仏画です。観音の白身と鮮やかな紅蓮華の台座、各所に施された金泥・截金の煌めき、そして二十八部衆の対比を意識した彩色などが相まって、明るい画面となっています。画題の希少さに加え、華やかな印象を持つ希有な作品であることから、湖西を代表する仏画として知られています。
千手観音は頭上に十二面を表した四十二臂の図像で、脇手の掌には眼が開かれており、千手千眼を表しています。この図像は千手観音の経軌である「千光眼観自在菩薩秘密法経」所説と一致しています。ただし、中央にて蓮華手合掌をする本手の下に描かれる宝鉢手は、鉢を持たず、阿弥陀定印と同じ印相を結んでいることが特徴です。頭光と月輪を負っていますが、月輪の外縁を截金で劃し、その内側を群青で暈かすように表現する技法も特異なものです。
観音の下方左右には、それぞれ十三躯づつ天部が向かい合うようにして並び、上端に描かれた風神・雷神を合わせて二十八部衆とし、観音を囲繞する情景を描いています。それぞれの天部は、めりはりの強い筆致で描かれており、着衣や肉身部には色隈を用いて立体感を表現しています。武装神の炎髪には金泥の細線による描き起こしがされ、着甲部にも金泥が多用されて、華やかな印象を更に高めています。
観音の居処である補陀落山は、大和絵風の自然景を多用した情景となっています。観音の背後には瀑布が轟き、その水の流れは下方の海へと流れ込んで力強い波濤を上げ、背後には針葉樹が岸壁を縫うようにして生え、力強い生命観を象徴しています。観音や天部の極彩色に対して、背景の自然は、墨の濃淡を巧みに利用した水墨画風の表現となっていることも、本図の特徴です。
観音は通常のつくり絵と同じく彩色の上に朱線で描き起こしをしており、その朱線は均一で伸びやかな線で描かれているのに対して、天部を描く線描では強弱を付けた墨線による描画がなされています。目の詰まった上質な絹本に発色の良い顔料にて彩色を施しているため、現在でも描かれた当初に近い画面が保存されてきたと言えます。
千手観音を描いた画像は遺例が少なく、また二十八部衆が囲繞する情景を描いたものは更に限られます。また千手観音が坐像形式となると、本図が唯一の例となるため、非常に貴重な作品として位置づけることができます。
大清寺は高島市武曽横山にあり、天台宗真盛派の寺院で、西教寺第三世の真恵が開いた寺院と伝えられています。 |