琵琶湖文化館には、巻末に「行年八十二雪舟筆」と記された「東洋風俗図」と称される東洋諸国の人々を描いた図巻があります。
雪舟は中世の水墨画の世界で活躍した禅僧で、応永27年(1420)に備中で生まれ、京都の東福寺、相国寺で禅の修行を積みます。特に相国寺で水墨画に親しみ、足利将軍御用絵師の周文や如拙に傾倒します。その後周防に下り、応仁元年(1467)、48歳の時に大内氏の派遣した遣明使に同行して明国へと渡り、かの地で画業を学びます。その後帰国して、雪舟がこの時に見聞したものを晩年の82歳の時に描き遺し、それを雪舟の弟子が写したものが「国々人物図巻」(京都国立博物館蔵)として伝えられています。「国々人物図巻」は雪舟直筆ではありませんが、雪舟に近い時代の写本として雪舟研究の中で注目されている図巻で、当館所蔵の「東洋風俗図」はこの「国々人物図巻」を江戸時代に写したものと考えられます。
図巻は右から「王」「唐僧」「太人」「秀才」・・・と明国の各階層の人々が描かれています。「王」は皇帝で、「唐僧」は中国の僧侶、「太人」はエリート官僚でもあり文人・教養人でもあった士大夫(したいふ)のことです。この後に「外郎」「内官」「道士」「太人女子」「百姓」「百姓女子」「唱人」「武者」・・・と続きます。描かれている服装に注目すると、明国の人々の誰がどのような身分であるかが一目でわかるように描き分けられていることに気づきます。
そして明国の人々の紹介が終わると「羅摩僧」「回々人」「だっ旦人」「西蕃人」「女真国人」「南蛮人」「天竺人」などと、中国の南方・西方・北方の周辺諸国の人々が描かれています。ここでも様々な国から集まる民族の服飾などの違いがよく分かります。
このように雪舟は自らの目で見た明国の人々やかの地にやって来る人々の形態を的確に描き記しました。
巻の最後の方では、諸国の人々の紹介が終わって、象・ラクダ・ロバ・羊・猪などが描かれています。本図を通じて、他国の人々の様子とともに、実際には見ることのできない動物を知ることができ、この図絵はいわば当時の万国図鑑と言えます。また本館所蔵の「東洋風俗図」は江戸時代の写本ですが、「国々人物図巻」をよく写しており、雪舟の時代の明国と周辺諸国の様子が伺える資料の一つです。
( 稲田 素子 )