琵琶湖文化館 the Museum Of Shiga Pref
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近江の文化財

絹本著色釈迦諸尊集会図       1幅 滋賀県指定有形文化財  中国・南宋時代
(けんぽんちゃくしょくしゃかしょそんしゅうえず)          米原市 成菩提院所蔵 法量 縦108.5 cm× 横53.2 cm

 

 本図は天台宗の談議所(学問所)として栄えた成菩提院に「法華曼荼羅」の名で伝来し、現在、琵琶湖文化館に寄託されています。

 

 画面上半部には、釈迦如来と文殊・普賢の二菩薩が描かれ、その下に十大弟子、梵天・帝釈天が左右対称に並びます。中央には「南無大乗妙法蓮華経」と記した宝塔が安置されています。本図は、釈迦が法華経の教えを説いた折に、法華経を守護する諸菩薩、諸天が参集する様子を描いた類例の少ない仏画です。

 

 画面左下隅には「大宋供進画士李安□筆」の落款(らっかん)があり、中国・宋の李(り)某なる画師によって描かれたことがわかります。本図の伝来について詳細は不明ですが、近世末期の時点で成菩提院に伝来していました。

 

 仏菩薩の理知的で穏やかな面貌、肉身を象る繊細な描線、彩色にみられる寒色と暖色の対比、諸尊の着衣や獅子・象の背に懸けられた障泥(あおり)(泥よけの飾り)に施された精緻で的確な文様表現など、総じて明るく温和な作風は、南宋時代の仏画に共通する造形的特色です。本図と近い作風を示すのが南宋時代末期の作とされる京都府・満願寺の三仏諸尊集会図(さんぶつしょそんしゅうえず)(重要文化財)です。本図の製作時期は万願寺本と同じく南宋時代末期の13世紀後半頃と推定されます。

 

 作者の李某についての詳細は不明で、現時点で同様の落款を有する作例が見出されていません。本図と作風の近い南宋時代の仏画が、当時の中国を代表する港湾都市の慶元府(けいげんふ)(現在の浙江省寧波(ねいは(ニンポー))周辺で多数制作されていたことから、作者は寧波を活動拠点としていた画師であった可能性が高いと考えられます。当時の寧波は日本と中国の交易における中国側の唯一の玄関口であるとともに、天台浄土教、仏舎利信仰、禅宗をはじめとする仏教文化の聖地であり、中国から帰国する僧侶や商人たちによって当地で製作された仏画が多数舶載されました。現在、これらの仏画は「寧波仏画」と総称されます。


 


※写真をクリックすると、拡大画像を見ることができます。

 滋賀県内には東近江市・永源寺の地蔵十王図(陸信忠(りくしんちゅう)筆、重要文化財)や大津市・西教寺の天台大師像(張思訓(ちょうしくん)筆、重要文化財)、長浜市・宝厳寺の北斗九星像(ほくときゅうせいぞう)(重要文化財)など、南宋時代の仏画が少なからず伝来します。本図の出来栄えはこれらの作例と比べても遜色なく、線描および彩色ともに洗練された秀作であることから、令和元年(2019)12月、滋賀県指定有形文化財に指定されました。

( 古川 史隆 ) 


※「釈迦諸尊集会図」は、令和4年(2022)2月5日から4月3日まで、県立安土城考古博物館で開催された、地域連携企画展「伝教大師最澄と天台宗のあゆみ」に出展されました。