絹本著色 如意輪観音像 1幅 | 重要文化財 鎌倉時代 | (けんぽんちゃくしょく にょいりんかんのんぞう) 野洲市 法蔵寺所蔵 | 法量 縦 123.9 × 横 91.8cm |
如意輪観音は、すべての願いをかなえる珠(如意宝珠:にょいほうじゅ)と仏法を世界に広める輪(輪宝:りんぽう)をもっていることからこの名で呼ばれます。 日本では奈良時代から信仰されはじめたとされますが、本格的に信仰の対象として仏像や仏画にあらわされるようになるのは、密教が伝来した平安時代に入ってからです。手を二本、四本、八本にあらわしたり、右足を台座の下に踏み下げたりする姿も伝わりましたが、現在残された例のほとんどは、手が六本でその内一本を頬に当て、右足を立膝とする姿です。 野洲市六条の法蔵寺の如意輪観音像もこの姿にあらわされます。特に女性からの信仰が厚かった如意輪観音には、女性らしい印象の作例が多く見受けられますが、本図もふくよかで柔らかい顔の輪郭や、しなやかながらふっくらとした手指は慈愛に満ちた女性的な雰囲気がうかがえます。一方で、墨色濃く左右がつながるほどに長く引かれる眉や、思い切ってしぼった腰を顔の傾きに合わせて少しひねる点、下半身にまとった裳(も)の丈が短く足首があらわになる点などは非常にエキゾチックで、密教の発祥地であるインドの表現を意識しているようでもあります。大きな耳璫(じとう:耳飾り)や、条帛(じょうはく:たすき状の布)の先端がにぎやかに波打つ点などにもそのような傾向がうかがえます。 本図の非常に珍しい特徴として、脛の周辺に見られる太いロープがうねるような衣文が挙げられます。これは、わずかですが天台宗系の仏画に見られる表現ですので、本図も天台宗の影響の下に制作されたと考えられています。また、本図は平安時代らしい穏やかさや具色(ぐいろ:中間色)を用いた蓮華座の表現と、鎌倉時代によく見られる文様を一切あらわさないシンプルな装飾性が混在している点も特徴的です。これは、本図がいまだ平安時代の余韻を残した鎌倉時代初期に制作されたことを物語っています。鎌倉時代初期に遡る如意輪観音を単独で描く絵画作品は日本にはほとんど残っておらず、本図は最古級の優品と言えます。 ( 和澄 浩介 ) |
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※「如意輪観音像」は令和4年(2022)10月8日から11月27日まで、野洲市歴史民俗博物館(銅鐸博物館)で開催された、地域連携企画展「近江湖南に華開く宗教文化 ー野洲・守山の神と仏ー」に出展されました。 |