紙本金地著色 王会図 6曲1双 滋賀県指定有形文化財 桃山時代 (しほんきんじちゃくしょく おうかいず) 草津市 観音寺所蔵 法量 (各) 縦 164.1 × 横 407.4cm 「王会図」は中国・唐時代に成立した画題で、中国周辺の異民族が皇帝に朝貢(ちょうこう:貢ぎ物を献上すること)する様を描いています。異民族が皇帝の徳を慕って来朝することは、皇帝の徳の高さを示す証として歓迎されました。ただし、中国および日本において現存する王会図の作例はわずかです。 観音寺に伝来する王会図は、現状、六曲一双(ろくきょくいっそう)の屏風仕立てですが、画面を構成する12枚の扇(せん)のうち6扇に襖(ふすま)の引手跡が認められるため、当初は襖貼り(6面分)として建物を飾っていたと考えられます。右隻(うせき)には殿舎内で皇帝と思われる人物に参内者(さんだいしゃ)が貢ぎ物を捧げる様が描かれます。左隻(させき)には参内のために殿舎外の庭に並ぶ人々と門外で待つ従者や馬などが描かれます。 本図に描かれた諸人物は総じて長身で均整がとれており、面貌は理知的かつ端正にあらわされています。これは桃山画壇を代表する絵師の狩野永徳(かのうえいとく:1543~1590)筆であることが有力視される「仙人高士図屏風(せんにんこうしずびょうぶ)」(京都国立博物館)や「群仙図襖(ぐんせんずふすま)」(京都・南禅寺)の人物画の作風を踏襲しています。また、皇帝の側に控える侍者や笙(しょう)を吹く人物の図像は、狩野派絵師の筆になる「玄宗並笛図屏風(げんそうへいてきずびょうぶ)」(文化庁)にも見られ、同一の粉本(ふんぽん:下書き)が使用されていると考えられます。本図の樹木や岩の描法は永徳画のそれに比べると温和で躍動感を欠きますが、製作時期は16世紀末を下るものではなく、筆者は不明ながらも永徳の次世代にあたる狩野派有力絵師と考えられています。 以上のように、本図は王会図という希少な画題を伝えることに加え、16世紀末頃に狩野派の有力絵師によって描かれたことが明らかな作例として注目されます。秀麗な彩色と硬軟を使い分けた的確な筆致は特筆すべきものであり、桃山時代の金碧(きんぺき)障壁画として、滋賀県を代表する優品のひとつとして評価できます。 ( 古川 史隆 ) 【 右 隻 】 【 左 隻 】 ※写真をクリックすると、拡大画像を見ることができます。