全国に長谷寺(はせでら)という名の寺院は数多くありますが、こちらは高島市音羽に所在する長谷寺の薬師如来坐像です。
一木造で、体部は像底より内刳り(うちぐり)を施しています。小さな螺髪(らほつ)を整然と並べ、少し突き出したような唇の表現が印象的です。小像ではありますが、細部まで意識のこもった丁寧な造りとなっています。
湖西地域は県内の他地域に比べると仏教美術の作例が多い地域ではありません。また大寺院もありません。しかし、地勢的に峻険な山並みを背後にひかえ、かつては山岳仏教の影響を受けた独特の宗教文化が栄えました。
長谷寺の薬師如来像は、織田信長の焼き討ちに遭い廃絶した、高島郡内随一の寺院であった大寺長宝寺(おおでらちょうほうじ)の像と伝えます。都ぶりの雅な表情の中に、一種の厳しさを見せるのは、そのような歴史の苦難を経てきたからかもしれません。 |
※画像をクリックすると、拡大して見ることができます。 |