木造地蔵菩薩立像 1躯 | 重要文化財 平安時代 |
(もくぞうじぞうぼさつりゅうぞう) 近江八幡市 東南寺所蔵 | 像高 66.7 ㎝ |
安土町下豊浦の東南寺に伝来した地蔵菩薩立像です。像高66.7cmの小さな像ではありながら、悠然とした構えや、重厚な肉体表現など、小ささを感じさせない迫力があり、見るものを惹きつける仏像です。
円頂相の比丘形で、額には白毫を表しています。右手を垂下して与願印とし、左手には、様々な願いを叶える宝珠を捧げ持っています。両足を揃えて蓮華座上に立っており、不動の安定感があります。目の詰まった針葉樹の一木から、右前膊・左前膊半ばまでを含んで彫出しており、内刳りは施していません。また、木心が像底では僅かに外れていますが、像の背面中央部では込められる木取りがなされているため、像の全面にわたって細かい干割れが走っています。 目鼻立ちが大きく、体躯に対して大振りな頭部の表現などから、一見、童子を思わせるかわいらしさを感じることができます。一方で、沈んだ目元の印象や、口元を引き締めた表情などには一種の沈鬱な陰があり、本像の魅力を深めていると言えるでしょう。 地蔵菩薩は、サンスクリット語で“クシティガルバ”といい、大地に満ちる様々な功徳を象徴した菩薩です。釈迦如来が入滅してより後、弥勒菩薩が成仏するまでの間、衆生の救済を司る存在とされました。特に六道救済の菩薩として信仰され、地獄からの救済を願う人々や、早世した子どもの救済を願って、多くの仏像が造立されました。 本像の腰の張りが強く、腹部や大腿部の肉付けを強調した表現は、唐招提寺・如来形立像(重要文化財)や、神護寺・薬師如来立像(国宝)などの系譜を引く、平安時代前期彫刻の影響を濃厚に見て取ることができます。また面長の頭部に、先端の尖った耳の表現などは、六道珍王寺・薬師如来坐像(重要文化財)とも共通性がうかがえます。 本像と同様に、二尺程度の小像で、悠然と構え、メリハリのはっきりした肉体表現を行う地蔵菩薩像は、法隆寺の地蔵菩薩立像(聖霊院安置・重要文化財)や、称名寺・地蔵菩薩立像(重要文化財)など、奈良地方に多く見られます。本像の近江仏像とは一種異なった印象も、これら南都仏像の影響を受けて造立されたことを想像させます。 東南寺は天台宗寺院で、創建年代は分かっていません。江戸時代(寛永年間)に桑実寺塔頭の正覚院が浄土宗に転宗し浄厳院(近江八幡市)末寺となった際、正覚院の末寺15か寺が東南寺につきました。この時、東南寺は正覚院寺格と寺務を引き継いだようです。 |
|
Standing Jizou Wood Heian Period, 10 century Height 66.7cm Tounan-ji, Oumihachiman,Shiga Prefecture |
|
※「地蔵菩薩立像」は、令和4年(2022)2月5日から4月3日まで、県立安土城考古博物館で開催された、地域連携企画展「伝教大師最澄と天台宗のあゆみ」に出展されました。 |