坂本の聖衆来迎寺に伝来した堆朱の香合2合です。ともに中央に大振りな牡丹とみられる花を表し、その周囲には、葉が埋め尽くす意匠が表されています。花の形態や葉の形などには違いを見せており、対としての対比を意識したものとみられます。
堆朱は、中国において唐・宋代ごろから始まった漆芸技法の一つで、中国では「剔紅(てきこう)」と呼ばれました。素地の上に、油を混入した漆を何層も重ね、乾燥させた後、文様を彫り表したもので、立体的な表現が特徴です。本品のように草花を表したものの他、鳥獣や、飛天の姿をあらわしたものなどがあります。
本品は、木製の素地の上に、えんじ色の漆層を重ね、さらに朱漆を何層も塗り重ねた後、草花を彫り出しています。蓋と身の口縁には、それぞれ一条の段をもうけています。また、刳り上げた底面と香合内部には、黒漆が塗られています。
底面には、針書で、その1には「張成造」と、その2には「楊茂造」の銘記が施されています。これは、中国・元代に活躍した彫漆師の名で、後世の堆朱師に尊崇されました。本品の針書銘も、前代名工の作品に仮託したものとみられます。
県内では数少ない漆芸工芸品の逸品です。 |