

「渋水郷」は茶室で使用する風炉先屏風。その名が示すように、水郷の風景が表現されています。画面の左右には長く伸びたヨシが表わされており、画面の中心には障害物に当たって流れを変える水の流れが白色で表現されています。この作品は、昭和61年(1986)の日本工芸会七部会に入選したものです。
和紙に黄色味の強い黄土色の絵の具を塗り、その上から柿渋を塗り重ねているため、全体の色彩は柿渋の茶色となっています。群生するヨシの姿は、柿渋の茶色から顔をのぞかせた黄色味の強い黄土色で表現されています。
画面中央には、柿渋の上から白い絵の具を塗り重ねて、白い水の流れがあらわされています。白い絵の具は雲母と呼ばれる鉱物で、「きら」「きらら」とも呼ばれてきた。そして、雲母の上部には水しぶきを表現するように、金や銀の砂子が散りばめられています。
職人の手だけで作りあげる「揉み紙」の技術を駆使すれば、このような絵画的表現も可能であるということを、この作品は雄弁に語っています。そして細かな部分により注目して鑑賞すればするほど、シワ・オレという一見偶然のように見える現象を、作者が計算しつくして必然としてそこに表現していることに、驚きを隠すことができません。