琵琶湖文化館 the Museum Of Shiga Pref
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近江の文化財

 文秀(ぶんしゅう)女王墨蹟   2幅対     近・現代   本館蔵
 文秀女王は、伏見宮邦家親王の子として天保15年(1844)に生まれました。3歳で円照寺文乗女王(有栖川宮織仁親王の皇女)の付弟となって、奈良にある円照寺に入りました。円照寺は中宮寺、法華寺とともに大和国三門跡寺院の一つです。この門跡は尼門跡と呼ばれます。皇女や皇族の息女が住職となる寺院です。8歳で文秀は得度したのち、円照寺第六世となりました。皇族最後の尼門跡として生涯を過ごし大正5年(1926)に亡くなっています。
 この二幅対の墨書は、1幅には、「掬水月在手処華香満衣」、もう1幅に「行到水窮処坐看雲起時」と墨書されています。始めの1幅は、中国清代康熙42年(1703)に、唐代に読まれた詩をまとめた「全唐詩」に収載されている于良史(うりょうし)の詩「春山夜月」の句の一節であります。もう1幅も中国唐の王維という人物の詩です。いずれもそれぞれ単独で禅語としてもよく知られる漢詩であり、製作された際にセットとして意識されたものではないと思われます。
 伏見宮家は代々能書家を輩出してきた家柄ですが、文秀もその一人といってよいでしょう。墨痕鮮やかで大胆にして力強く、そして淀みない書風をその特徴としており、本品もその特色が遺憾なく発揮された作品であるといえます。