
この二幅対の墨書は、1幅には、「掬水月在手処華香満衣」、もう1幅に「行到水窮処坐看雲起時」と墨書されています。始めの1幅は、中国清代康熙42年(1703)に、唐代に読まれた詩をまとめた「全唐詩」に収載されている于良史(うりょうし)の詩「春山夜月」の句の一節であります。もう1幅も中国唐の王維という人物の詩です。いずれもそれぞれ単独で禅語としてもよく知られる漢詩であり、製作された際にセットとして意識されたものではないと思われます。
伏見宮家は代々能書家を輩出してきた家柄ですが、文秀もその一人といってよいでしょう。墨痕鮮やかで大胆にして力強く、そして淀みない書風をその特徴としており、本品もその特色が遺憾なく発揮された作品であるといえます。