琵琶湖文化館 the Museum Of Shiga Pref
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近江の文化財

 近江物産志   2冊     江戸時代   本館蔵

 「近江物産志」は上下巻2冊本です。上巻は菌糸類、樹木類を、下巻は水ハコベなどの植物のほか、「海ドジャウ(どじょう)」といった魚類、タブガイ、ジナなどの貝類、ヤブシナイやヨロントほかの鳥類、さらにスズメバチやヤンマなどの虫類などが紹介されています。

例えば、「ヤンマ」は「長二寸クライ イロ(色)メ(目)ハアヲアカ(青赤)ク ヲ(尾)ハアヲクロ(青黒)ク」と、紹介されています。
 興味深いのは、川に住んでいる細長い巻き貝である「カワニナ」が、「カワイナ」と書かれるなど、現在とは発音が異なる記載もみられることです。発音というのは時代によって異なることもありますので、貴重な情報だといえるでしょう。
 表紙には「寶玲文庫」という蔵書印があり、イギリス人であるフランク・ホーレーの蔵書であったことがわかります。ホーレーは日本研究家であり、膨大な数の古い書物を蒐集したことで知られています。とりわけ本草学や和紙、捕鯨、琉球に関係する書物の蒐集に力を注いでおり、貴重な書物が丁寧に保管されていたようです。
 ホーレーは約1万7千冊を蔵していましたが、第二次世界大戦下に「敵産図書」として処分され、慶応義塾大学が購入しました。そして、一度はイギリスへ帰らざるをえなくなったホーレーでしたが、戦後、再び来日して古書を蒐集、その死後、約1万冊が競売にかけられました。現在では、国立国会図書館が古活字版、天理図書館が和紙関係や古経典類、ハワイ大学が琉球関係をまとまって所蔵するほか、全国各地にその蔵書は散逸しています。
 琵琶湖文化館が所蔵する「近江物産志」は、いつ誰がどのように作り上げたものかは明確ではありません。しかし、蔵書印によって本書がたどってきた道程の一部分、そしてこれを愛した人物を知ることができるのです。



( 井上 ひろ美 )
 

※「近江物産志」は、令和3年(2021)2月6日から3月21日まで、県立安土城考古博物館で開催された、地域連携企画展「琵琶湖文化館の『博物誌』―浮城万華鏡の世界へ、ようこそ!―」に出展されました。