琵琶湖文化館 the Museum Of Shiga Pref
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近江の文化財

 明治天皇御名字 伝孝明天皇宸翰   1幅     江戸時代   本館蔵
 平成30年(2018)は、明治元年(1868)から起算して満150年。天皇の即位からその崩御までを一つの年号とする制度は、明治時代に採用されました※。大政奉還による江戸時代の終焉とともに、明治維新を経て、日本をあらゆる面で近代国家へ変貌させた明治時代。その中心にあって近代日本の礎となった明治天皇の御名字:命名にかかわる貴重な史料が、当館には収蔵されています。

 この文書は、明治天皇の諱(いみな=実名)である「睦仁(むつひと)」が命名されたとき、その名を書きつけた「名字書(みょうじがき)」と呼ばれるもので、天皇の諱なので敬意をこめて特別に「御名字(ごみょうじ)」と称されています。
 折紙(おりがみ)と呼ばれる形式がとられ、上段中央に「睦仁 武豆比登」と諱および万葉仮名による字訓(読み仮名)が書かれているのがわかります。また、名字以外にも、
 上段の余白に
  一、可為准后上事 【ひとつ、准后(太皇太后・皇太后・皇后)の上たるべきこと】
  一、御名字 【ひとつ、ごみょうじ】
 下段の余白に
  一、和宮一件之事 【ひとつ、かずのみや(和宮内親王)いっけんのこと】
云々の書き込みが認められます。

 では、一体いつ、誰が書いたのでしょうか。明治天皇の諱「睦仁」は、誕生の時ではなく万延元年(1860)9月28日に9歳で親王宣下を受けた時、同時に父である孝明天皇から賜ったものです。嘉永元年(1852)の誕生からそれまでの間は、幼称の「祐宮(さちのみや)」と呼ばれていました。

 現在、宮内庁の東山御文庫には勅封御物として、このとき作成・使用された御名字(孝明天皇宸筆)正文1通と「雛形」=控2通、親王宣下宣旨(壬生輔世筆)の正文1通が伝えられています。東山御文庫にはまた別に、琵琶湖文化館の御名字と同じように、「睦仁 武豆比登」と諱および万葉仮名による字訓が書かれた御名字1通も蔵されており、文化館本も含めてそれらの関係については、今後の調査・検討が期待されます。

 文化館本に書かれた諱の筆跡は、写真が公開されている東山御文庫本の2通とは若干異なるようにも思われます。ただし、余白に書きこまれた「准后の上たるべき事」や「和宮一件の事」などは、孝明天皇の内意を側近がメモしたものと考えられ、幕末宮廷史の情勢を生々しく伝えてくれる貴重な史料であると言えます。琵琶湖文化館の隠れた「優品」のひとつと言えるでしょう。

※ 現在は、昭和54年(1979)に制定された元号法により、元号は政令で定め、皇位の継承があった場合に限り改めることとなっています。

 本資料は、令和元年(2019)7月27日(土)~9月29日(日)の間、甲賀市土山歴史民俗資料館にて開催された、琵琶湖文化館地域連携企画展「歴代天皇と近江-琵琶湖文化館 館蔵品より-」に出展されました。