春の訪れとともに山王祭(本祭は4月12~15日)の時期を迎えます。今回は、それにちなんで屏風装に仕立てられた日吉祭礼図をご紹介します。
生源寺業蕃筆の「日吉祭礼図」は全長約20mにもおよぶ絵巻物で、作者が神職という立場から数日にわたる山王祭の各儀礼の様子や作法を詳録したものでした。しかし、そういった祭礼図というのはむしろ珍しく、祭礼図(風俗画)といえば勇壮かつ華麗な姿を鑑賞用として、屏風などにハイライトシーンのみを描くのが一般的です。今回ご紹介する日吉祭礼図屏風もその一つで、山王祭のうちもっとも賑わいをみせる申日の神事の様子を描いています。
この屏風は、2曲1双(2つで1セット)の4面構成となっており、右隻(右写真)第1扇には、神輿と同じくご神体である大榊が四宮神社(現天孫神社)から日吉大社へ帰ってくる「大榊還御」の場面が描かれています。中神門(画面下部)からの甲冑姿の警固役の行列が印象的ですが、さらに画面中央には今ではみられない桟敷入りしている僧侶の姿がみえます。これは江戸時代まで、主催者の一員であった延暦寺が祭礼に積極的に参加し、申日には、僧侶が桟敷に入って神事を見学、監察していたためです。そして、その際には田楽の披露があり、その様子もあわせて描かれています。今ではみることできない神仏習合時代の一場面です。
右隻第2扇には神輿が日吉大社から琵琶湖へ向かう「神輿神幸」の様子が描かれています。画面下部の神輿とともに神職や担ぎ手の賀輿丁、太鼓や警固役など一大行列をなして湖岸へ向かう様子が描かれています。
そして左隻(左写真)第1扇には、画面上部に神山である八王子山を描き、その下に七本柳から出発して唐崎へ向かう神輿を湖岸と湖上にそれぞれ1基ずつ描いています(船渡御)。神輿船の構造は木造船二艘を一つに並べ繋げたもので、当時の様相を今に伝えます。
続いて左隻第2扇には、船渡御を終えて日吉大社へ還御する神輿3基と、それを警固する勇壮な武者行列の様子を描いています。
日吉祭礼図屏風といえば、ダイナミックに描かれた六曲屏風がほとんどで、本作のような2曲1双の類例はありません。どのような目的で製作されたのか、そういった意味でも大変興味深い作品です。
( 渡邊 勇祐 )
※「日吉祭礼図屏風」は、令和5年(2023)10月7日から11月19日まで、県立美術館で開催された、地域連携企画展「千年の秘仏と近江の情景」に出展されました。