作者の山本梅逸(やまもと ばいいつ:1783~1856)は名古屋の出身で、字は明卿、号は梅逸・春園・梅花道人などと称し、盟友の中林竹洞(なかばやし ちくどう)とともに画を学び京都に出てさらに研究を重ね、花鳥山水を得意としました。
本図は、雪の降り積もった冬の一風景を描いています。画面上部には竹と梅がのび、梅の枝には三羽の小禽が羽根を休めています。中央には椿と南天が赤い花や実をつけ、しなる南天の枝には一羽の小禽がとまっています。下方には山茶花や水仙が描かれ、黄色く咲く福寿草が春を告げています。
本図の最大の特徴は、草木に覆いかぶさる雪の表現です。冬のどんよりとした空気を薄墨で一面に塗り、塗り残した生地の色をいかすことで、白い雪を表現し、椿と南天の赤色が視覚的効果を高めています。
雪の積もった静寂の中、鳥の鳴き声だけが響いてくるようであり、本図を目の前にすると、思わず息をひそめて見入ってしまいます。
この作品には、円山四条派の写実的な画風を取り入れ鋭い輪郭線と華麗な彩色をほどこす、梅逸の独自性が遺憾なく発揮されています。
花や鳥をテーマにすることは、自然の風景を描いた「山水画」と共通する美意識の表現で、人間はつねに自然と融合し、自然と一体化の中に生活し、そこに“美”を見出してきたからです。花・鳥を身近に描いて鑑賞することで心の安らぎを得るという、先人がつくりあげた感性豊かな美の世界を、私達も存分に楽しみたいものです。
【絹本著色 江戸時代 縦161.5×横58.8】
※「寒華傲雪図」は令和5年(2023)2月4日から4月2日まで、滋賀県立安土城考古博物館で開催された、地域連携企画展「琵琶湖文化館収蔵品にみる四季」に出展されました。