琵琶湖文化館 the Museum Of Shiga Pref
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近江の文化財

中江藤樹書跡「自反」      1幅 江戸時代
(なかえとうじゅしょせき「じはん」) 本館蔵  法量 本紙  縦 54.5 × 横 53.5 cm
中江藤樹(なかえとうじゅ:1608~1648)が「自反(じはん)」の二文字を大きく自筆し、解説を書き加えたものです。楷書で書かれた文字は一見たどたどしくも見えますが、江戸時代の人びとは平素「御家流(おいえりゅう)」と呼ばれるくずし字で手紙や日記などを書くことが多く、あらたまった機会にしか楷書を書かなかったことが要因です。

藤樹は現在の高島市に生まれ、「近江聖人」と呼ばれる儒学者です。「自反」は自反慎独(じはんしんどく)ともいい、自己反省のことです。すべての事について自分自身に深く反(かえ)りみて、独善を慎むという思想です。元来は孟子が示した考えでしたが、藤樹も盛んに取り入れて折々に述べています。人は不都合なことがあると、その原因を自分以外のものに求めようとする性癖があります。藤樹は常に自分の心がけや行いを反省し、ひとり身を慎むこと(慎独)が、良知に致る方法であるとしました。また著述 『陰隲(いんしつ)』の中で、自反慎独するとともに仁(じん)の行動をすれば天は幸福を与えるが、逆に外物を願い自己を欺いて、仁の道に背けば天は幸福を奪うのだと述べています。自己反省を徹底するとともに、誰もが本来的に持っている「良知」の力を発揮することが、人としての幸福につながるという教えです。藤樹はまた、「自反」の習慣が身に付けば「悪意の人に対しても、心が逆立つ気持ちは自ずと無くなる」とも教えています。人間関係が複雑化してストレスの多い現代生活においても役立つ、過去からの素晴らしいアドバイスではないでしょうか。

※『陰隲』の叙述などについて、近江聖人中江藤樹記念館から教示を得ました。

( 井上 優 )

 

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※中江藤樹書跡「自反」は、令和3年(2021)10月22日から11月14日まで、地域連携企画展「渋沢栄一と中江藤樹・熊沢蕃山 ー高島市ゆかりの文化財とともにー」に出展されました。