琵琶湖文化館 the Museum Of Shiga Pref
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近江の文化財

 仏像 構造模型    2躯   近・現代   本館蔵
 当館には、皆さんに、より分かりやすく、より親しみやすく、文化財のことを知って貰おうと企図して作られたアイテムがあります。その内の一つは、収蔵品紹介で既に紹介している「屏風構造見本」です。こちらは一般的に普段見ることが出来ない屏風のおもて面(絵が描かれている面)のその裏側(絵の下)の構造がわかるように、通常の約1/3のミニチュアサイズで作られています。見たことのない「裏側」をのぞくのは、ちょっとドキドキしますよね。
 同じように、普段お見せすることが出来ないところを皆さんに紹介し、文化財の保護・活用に理解いただこうと制作されたのが、この木製の「仏像 構造模型」です。これをもとに、仏像の造り方の違いとして代表的な「一木造(いちぼくづくり)」と、「寄木造(よせぎづくり)」の2つを紹介しましょう。

 一木造は、からだの主要な部分(頭部、胴部)を一本の木から造り出す技法で、仕上がりは頑丈で重厚な表現となります。この模型では、足の部分を別の木で造っています。
 飛鳥時代から奈良時代にかけて、国家の一大事業として造寺造仏が盛んに行われましたが、一木造の木彫像が主流を占めるようになるのは平安時代に入ってからです。一木造では、木そのものが祈りの対象ともなっていた「霊木」を使うことで、その霊力や神秘性といった特別な力を仏像に宿そうとしていたようです。一方で、霊木は入手困難なうえ、大きな像を造るには巨木が必要であり、原木を乾燥させるために時間もかかりました。木のひび割れを防ぐために、像の内側を削る「内刳り(うちぐり)」を施す場合もありましたが、仕上がりは重量があり、移動させることが困難という難点もありました。

 寄木造は、からだの主要な部分を二つ以上の材を寄せて造り出します。この模型では、前後二材、両体側二材、脚部一材で造られています。
 平安時代後期には、貴族中心の国風文化が華開き、仏や菩薩がいる浄土世界にあこがれる浄土信仰が盛んとなり、また庶民や武士たちにも仏教が広まることで、仏像に対する需要も高まりました。寄木造は、原木の大きさに関係なく仏像の大きさを決めることができ、部材が別れているため木を乾かす時間も短く、木を彫る作業も分業できるという利点がありました。
 仏像制作は時代のニーズに応えるよう、合理的に数多く造ることができる寄木造にシフトし、その後日本の仏像制作の主流となっていったのです。

 博物館で展示されている仏像が一木造なのか寄木造なのか、一見したところでは分かりにくいところです。皆さんが見て感じられる以上に「実は重い」「実は軽い」ということはままあります。しかし、博物館で仏像に触れる機会が多い者にとって、その構造がどのようになっているのかを熟知していることは、とても重要です。「一木造ならこの部分は持っても大丈夫」「寄木造で矧(は)ぎ目のこの部分は脆弱になっているから特に気を付けて」と、扱いが異なるからです。

 もちろん、私たち以外にも仏像の構造に詳しい方たちがいらっしゃいます。それが仏像を修理する「仏師」と呼ばれる方々です。伝統の技法を受け継ぎ新しく仏像を造るだけでなく、経年によって形や材質が変化し、現状を保持するすることが難しくなってきている仏像を修復し、未来へ橋渡しをする、重要な作業を担って下さる方たちです。平成30年9月8日から10月14日まで、愛荘町立歴史文化博物館と多賀町立博物館で「仏師の世界-文化財修理にかける心」展が同時開催されました。今回、当館の「仏像 構造模型」が多賀町立博物館に出展され、仏像彫刻にまつわる奥深い世界を、多くの方にご鑑賞いただきました。

(平成19年作成)