今回紹介するのは横井金谷(よこい きんこく:1761~1832)の「雪中山水図」です。
江戸時代中期を代表する俳人に与謝蕪村(よさぶそん:1716~1784)という人がいます。松尾芭蕉への回帰を志向し、俳諧復興に尽力した人物として有名ですが、あわせて文人画の大成者でもあります。この蕪村の活動に多大な影響を受け、さらに近江において画業をなしたことから、「近江蕪村」と呼ばれた2人の画人がいます。一人は四条派の始祖・松村呉春(1752~1811)とともに蕪村門弟の双璧といわれた紀楳亭(きばいてい:1734~1810)です。楳亭は晩年に大津に移り住んで画業をなしました。収蔵品紹介においても代表的な作品を紹介しました「深林明月図」「蓬莱郡仙図」。
そして、もう一人が栗太郡笠縫村下笠(現・草津市下笠町)に生まれ、自ら蕪村に傾倒、浄土宗の僧侶でもあった横井金谷です。蕪村画に影響を受けながら、大坂、江戸、京都、名古屋など各地を放浪し、仏画、山水画、人物画、俳画、祭図などその生涯において膨大かつ多彩な作品を残しました(「金谷上人御一代記」)。
金谷の作品についても、初期の作品「山居図」を紹介していますが、本品は後半期の作品です(印章「吾五十有五而志於学」)。
山水景の滑らかな筆の運びは四条派のそれと類似しますが、個々の人物や動物表現は金谷風ともいうべき、なんともユーモラスで愛らしさを感じさせるものです(左下写真)。
さらに本品を特徴づけるものが、画面全体に顔料を振りかけたかのような降雪表現です。款記部分をも覆うダイナミックなもので、荒々しさを感じさせつつも(右写真)、画面全体では調和のとれた降雪の表現となっており、積雪の到来を予感させます。
※本品は、滋賀県立近代美術館、草津市立草津宿街道交流館そして琵琶湖文化館が連携して開催する「旅する画僧・金谷 ― 近江が生んだ奇才 ― 」展(会期:平成31年(2019)3月16日~5月12日/会場:草津市立草津宿街道交流館)に出展されました。
( 渡邊 勇祐 )